わたあめちゃんのお墓

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両親に山に捨てられた話

自我が芽生えて強くただをこね始める“魔の2歳児”、あるいは第1反抗期の3歳の頃だろうか。全く言うことを聞かず、喚き立てるわたしを、両親は山に置いてくるふりをしようとした。一度痛い目を見せれば言うことを聞くようになると考えたのだろう。しかし、わたしのそれは発達段階上仕方の無いもので、そのようなことをすることは逆に甚大な悪影響を及ぼす可能性もあったかもしれない。嫌がるわたしを無理やり車に乗せ、父の運転で近くの山へ向かった。不思議なことに、そのとき山まであまり遠く感じなかった。
石碑のようなものがある場所で車から下ろされた。言うことを聞かないなら本当に置いていくからな、というような旨のことを言われた気がする。近くをおじいさんが通っていった。何か言われるかと思ったが、全く何も無かった。世の中はわたしが思うより他人に無関心である。
父は車に乗り、ドアを閉めて発進した。わたしはそれを後ろで見ていた。ほんとにいっちゃうんだ、そう思ったが、絶望感などはなかった。意外にもわたしの頭の中は冷静だった。しかし、車を追いかけなければならないような気がして、わたしは走った。そのうちに涙が出てきた。走って追いつくわけがないと思ったが、距離が開くこともなく、幼いながらも不思議に思った。途中で知らない男性とすれ違った。とても恥ずかしかったが、気にして止まるわけには行かなかったので、走り続けた。そのうちにゆっくりと車は停車して、わたしは追いついた。運転席から父が出てきて、これからは言うことを聞くかと訊いた。わたしは肯定した。終始、100%父の望むような反応をすることができた。
バカみたいだなぁと思った。

数年後、おかあさんは言った。あのとき父ちゃんの言うままに山に置いてきちゃってごめんね、止められなくてごめんね。わたしは別に捨てられそうになったことはなんとも思っていなかった。ただ、謝れば済むと思っているならそれはそれで愚かなことだと思った。