わたあめちゃんのお墓

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からっぽの穴から漏れる涙

斜視と聞いて思い出した。

片目を失った知り合いがいる。どういった経緯でそのようなことになったのかは知らないが、あるときから左目に眼帯を付けてくるようになり、しばらく経っても外れることはなかった。はじめこそ気になっていたものの、そのうちにわたしもその子のその姿に慣れていった。
ある日、先生からその子が話したいことがあるようだから来いと言われた。わたしはその子のことが好きというわけではないので、正直なことを言うと、面倒に思っていた。しかし、わたしに拒否権はあるはずもないので、仕方なく廊下に出ると、わたしとその子のほかにもう二人待っていた。
そこでわたしは彼女の眼帯の中がからっぽだということを聞いた。
わたしも正常な感覚を持っているので、その話は結構ショックだったし、どのような顔をしてどのような言葉をかければいいのかわからなかった。
話をしているうちに、その子の目から涙が出てきた。そりゃもちろん本人がいちばんつらいにきまっているだろう。わたしはその子の事情なんかまったく興味がわかなかったが、眼帯で隠れているその空洞からも水滴が零れているのか、そのことばかりが気になってしょうがなかった。
その子はそのとき、手術をして義眼を入れると言った。その言葉の通り、日が経って再会すると、眼帯が外れていた。ふむ、本物と遜色ないな。そう思った。しかし、よく見ていると、両目が合っていないことがしばしばあると気付いた。彼女からあんな話を聞かなければ、そんな些細なことになど気付かずにいられたかもしれないし、彼女のことを考えるとき常に同情心を抱いてしまうなんてことはなかったはずなのに、どうしてあの子はわたしたちにあの話をしたのだろうか。大して仲もよくないわたしにそんな重たい話をしないでほしい。